成分や含有量は異なるが、包装は本物そっくりの「ニセ薬」問題で、ファイザーの池田哲也セキュリティーオフィス部長は、勃起不全(ED)治療薬「バイアグラ」の偽造品が全世界で流通している量は、本物の約2・5倍と推定されるという調査結果を明らかにした。日本でも同程度という。流通経路は、偽造品をつかまされた輸入代行業者、中国や韓国の犯罪組織などから流れるケースが多いとし、インターネットからの購入、疑義貨物の検査では、個人輸入の半数以上が偽造品だとしている。
ファイザーの医薬品で偽造が確認されているのは、主力の高脂血症治療薬や降圧剤などを含む12製品。世界69カ国で確認しているという。
バイアグラは、偽造のターゲットになっている薬剤の一つ。偽造品は海外規格の100mg錠(日本未承認)だが、含有量は10mg程度から400mg程度までバラツキがある上、不衛生な状態で製造されている。米ファイザー本社は、新型のボトルを導入したり、今年1月には新旧ボトル全てにICチップを利用した認証タグ「RFID」を添付するなどの偽造品対策を実施している。日本税関も流入阻止対策を講じている。
同社が確認している範囲では、今年は大量押収事件があったことも関係し、差し押さえ、偽造品の摘発は70件以上、押収されたED治療薬は16万錠(うちバイアグラが14万錠)に上るという。
最近目立っているルートは、「中国各地で製造し、中国・韓国などのエージェントを介して、犯罪組織や同胞ネットワークによる流通」と指摘、麻薬取り引きと同様のルートが使われるケースも出ているという。中国発の場合は、米国、香港、オーストラリアを経由するルートが確認されている。
近年のニセ薬は、バイアグラなどライフスタイルに関係する医薬品から、抗癌剤やインスリンといった人命に直接結び付く医薬品にも広がっているとし、事態の深刻さを訴えた。
ニセ薬問題に詳しい金沢大学の木村和子教授もセミナーに同席し、WHOの調べとして、ニセ薬は日米欧では販売量の1%未満だが、アジアや途上国では30%程度に達していると紹介。世界医薬品市場の約6%という見方を示した。
ニセ薬には、▽嵩張らないため、発見されにくい▽専門家でも、偽物と本物の見分けをつけにくい▽麻薬に比べ市場が大きく、麻薬所持より刑が軽い――などから、犯罪集団が手を染めやすい状況にあるという。
服用により死亡を含む健康被害もあり得るほか、本物の製品に対する信用も失墜するとし、国内の関係者に警鐘を鳴らした。また国民には「薬局など確かなところから医薬品を購入する」ことを呼びかけた。
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