セルジーンは、多発性骨髄腫治療薬「レブリミド」(一般名:レナリドミド)を6月に申請し、日本市場に本格参入する。2010年秋の上市に向け、血液癌領域で専門性の高いMRを採用し、販売体制を構築する。上市後は、レブリミドの拡販だけでなく、適正使用に向けた安全管理にも注力し、レブリミドの早期浸透を図る方針だ。代表取締役社長のジョー・メリロー氏は、本紙のインタビューに応じ、「専門性の高いMRを採用・育成し、血液癌のエキスパートを目指したい」と述べ、「血液癌領域で選ばれる製薬企業」を目指す考えを示した。
セルジーンは、米国に本社を置く製薬企業で、血液癌に特化し、グローバルで事業展開を進めてきた。05年に日本法人が設立され、社員数は約50人。国内の市場環境が激化する中、メリロー社長は、「血液癌領域は、アンメットニーズが非常に高く、加えて高齢化社会で患者数の増加が予想されていることから、チャンスがある」と言い切る。
その成功のカギを握るのが、レブリミド。メリロー氏は、「セルジーン=レブリミド=血液癌」として位置づけており、レブリミドの早期浸透に向けて全力で取り組む考えだ。今年6月に、「再発・難治性の多発性骨髄腫」の適応症で申請を行い、現在、来秋の上市を目指して準備を進めている。
レブリミドは、サリドマイド誘導体(IMiDs)と呼ばれる免疫調節薬。血管新生抑制をはじめ、T細胞やNK細胞の活性の促進、抗腫瘍作用など、複数の作用機序を持つ。他の治療薬とは異なり、出現が認められる副作用は血液毒性だけで、サリドマイドなどで見られる神経毒性などはなく、血液内科だけで管理できるメリットがある。
現在、多発性骨髄腫の治療では、サリドマイド、ベルケイド(一般名:ボルテゾミブ)が使われているが、血液毒性だけでなく、神経毒性などの重篤な副作用発現頻度も高いため、長期処方が難しいという問題があった。メリロー氏は、「サリドマイド、ベルケイドよりも抗腫瘍作用に優れ、副作用の発現を管理できるレブリミドは、血液内科だけでマネジメントできるため、医療現場でも歓迎される薬剤」と自信を示す。
さらに、多発性骨髄腫に続き、「5番染色体長腕欠失を伴う低リスクまたは中間1リスクの骨髄異形成症候群(MDS)による貧血」での適応症取得も目指している。厚生労働省からオーファン指定を受けており、年内に申請を行う予定だ。
患者数は100人と少ないが、治療薬が上市されていない疾患のため、患者からの期待は高い。5番染色体以外の異常を示すMDSへの適応でも、来年前半に治験を開始する予定で、レブリミドの最大化に全力で取り組む考えだ。
レブリミドについて、「複数の作用機序を持つため、多くの血液疾患で適応拡大が期待できる」とメリロー氏。現在、海外で多くの血液疾患を対象としたレブリミドの臨床試験が行われているほか、一部の固形癌でも有効性・安全性が確かめられている。さらに、レブリミド無効の患者に対する治療薬として、次世代のサリドマイド誘導体「ポマリドマイド」の開発が進められており、第II相試験段階にある。
当面は、来年秋の上市を控え、販売体制の構築が急務となる。営業ターゲットとなるのは、血液癌の専門医が在籍する600~700施設。メリロー氏は、「それらをカバーするためには、70人のMRが必要」と述べた上で、「血液内科の専門医は、勉強熱心なドクターが多く、MRの質が求められる」と語り、人材の採用・育成を最重要課題に挙げた。既に社内には、血液内科のドクターが在籍するなど、充実した研修体制が整備されつつある。来年早々には、研修を開始させる予定で、メリロー氏は、「血液癌の専門集団を育成することで、他社との差別化を図りたい」と意欲を見せる。
また、催奇形性のリスクがあることから、適正使用を目的とした安全管理対策にも取り組む。現在、厚生労働省とレブリミドの処方に対する安全管理プログラムを作成している。メリロー氏は、「一番、重要なのは、投与患者の妊娠を防止すること」とし、妊娠の可能性がある女性に対する投与を避けるなど、投与前の管理、指導を徹底する方針だ。
さらに、「欧米では、サリドマイドとレブリミドが数万回処方されているが、セルジーンの徹底した安全管理プログラムにより、一度も処方患者で妊娠例は出ていない」と強調。レブリミド上市後の安全管理プログラムに対して、自信を示す。
同社の事業ビジョンは、「癌を慢性疾患にしたい」。患者のQOLを損なわずに、癌を薬剤でコントロールできる社会の実現だ。メリロー氏は、「血液癌のスペシャリティファーマとして、患者・医療機関に信頼される製薬企業を目指したい」と述べ、レブリミドの製品力とMRの専門性を組み合わせることで、セルジーンのブランドイメージ向上に取り組む考えだ。