石井名誉教授 |
日本で初めて高血圧症の高齢者を対象に実施された大規模臨床試験「JATOS」の結果がまとめられた。同試験は、カルシウム拮抗薬である塩酸エホニジピンによる高齢の高血圧症患者に対する治療方法を検討したもので、血圧管理の重要性が確認されたほか、収縮期血圧(SBP)を140mmHg未満に降圧した際の安全性が確認された。
試験は、日本高血圧学会の後援のもとで、日本臨床内科医会が中心となり実施された。試験ではSBPが160mmHg 以上の65085 歳の高血圧症患者4418例を、SBP140mmHg未満を降圧目標とするA群と、SBP140mmHg 以上160mmHg 未満を降圧目標とするB群に無作為に割り付け、2年間にわたり治療を実施した。
その成績についてみると、イベント発症率と危険因子の関係では、「年齢」「脳血管障害」で相関性が高く、次いで「腎障害」「性」「心臓障害」「糖尿病」「喫煙」「脂質代謝異常」の順でイベント発症率と相関していた。その上で、それらの危険因子で補正して、一時評価項目である脳心血管障害や腎障害の累積発症率についてA群とB群を比較したところ、イベント発症率には有意差がないとの結果だった。また、2次評価項目である有害事象についても有意差が確認されなかった。
その成績を踏まえて、都内で開かれたセミナーで石井當男氏(横浜市立大学名誉教授)は、「高齢者高血圧患者においても血圧を管理することが重要で、危険因子を抱えている場合ではその管理も大切であることを示唆している」と評価した。
全体解析では両群間に有意差はなかったが、治療期間中のSBP平均とイベント発症率を二層化法で検討したところ、140mmHg未満の患者では、140mmHg以上の患者に比べ、イベント発症率が低かった。その点から石井氏は、「血圧管理では、140mmHgにすることが望ましい」とした。
またサブ解析では、脳心血管イベントの発症の要因とされている慢性腎疾患について検討された。腎機能の指標である糸球体濾過率(GFR)を評価したところ、エホニジピンがアンギオテンシン変換酵素阻害剤と同様にGFRを改善することが分かった。また、糖尿病性腎症患者でも同様の結果が見られた。このことから、同剤に臓器保護作用があることも示唆された。ただ、GFRが30%未満の患者では、脳心血管イベントの発症率が高いことから、GFRが30%未満の患者における降圧治療の重要性が示唆された。
そのほか、対象症例の約30%にみられたメタボリックシンドローム(MS)では心血管疾患の発症率が高かった。特に、MS症例についてA群とB群を比較したところ、前期高齢者でA群でのイベント発症率が低くい結果も得られており、積極的な降圧療法が待たれる結果だった。既に、降圧剤の種類によって、MSの背景となるインスリン抵抗性や脂質代謝異常に対する影響が異なることが分かっており、持続型のカルシウム拮抗剤やアンジオテンシン変換酵素阻害剤といったインスリン抵抗性改善に作用する薬剤の選択など、降圧剤の使い分けが望まれそうだ。