|
日本人の高血圧患者を対象とした大規模臨床試験として注目されていた「CASE‐J」の成績がまとまった。CASE‐J試験は、高血圧症患者における心血管イベント発現抑制について、アンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)のカンデサルタンとカルシウム拮抗剤のアムロジピンを比較した試験。成績では、両剤の心血管イベント抑制効果は同等であったことが明らかにされたほか、高血圧症患者の病態などによって、有用性が異なる結果が得られている。都内で開かれたセミナーで、猿田享男氏(慶應大学名誉教授)はCASE‐Jの結果を踏まえ「高血圧症の病態に応じた至適治療に向けて、CASE‐Jで得られたエビデンスを日常診療に生かしてほしい」と話した。
CASE”Jは日本高血圧学会の後援を受け、京都大学EBM共同研究センターが中央事務局となり、CASE”J研究会で実施された。試験では、糖尿病患者や狭心症などの心疾患、慢性腎不全などの危険因子が認められる高血圧症患者4728人を、カンデサルタン投与群とアムロジピン投与群のいずれかに無作為に割り付け、両剤の心血管系イベントの発症などに対する抑制効果が約3年間にわたり比較された。
その成績によると、両剤ともに十分な降圧が達成されていた。ただ、アムロジピン群で若干降圧作用が高いことが認められている。
試験目的の心血管イベントの発生率については、両群とも5.7%で同等という結果だった。その詳細解析では、有意差はなかったものの、投与開始から18カ月まではカンデサルタン群に比べてアムロジピン群が、18カ月以降は結果が逆転してカンデサルタン群が心血管イベントの発症を抑制する傾向がみられている。また、全死亡率についても、カンデサルタン群では時間を追うごとに抑制傾向が示された。
心血管イベントの発生が投与期間によって逆転したことについて、猿田名誉教授は「ARBには腎保護作用など臓器保護作用があることが分かっており、降圧作用に差があるにもかかわらず、心血管イベントの発症抑制が逆転した」のではと分析した。今回の試験では有意差は出なかったが、症例数を増やせば有意差が生じる可能性もありそうだ。
実際、患者背景別に比較したところでは、心血管イベント発現に影響する腎不全の発現率を、カンデサルタンが半減させる結果が得られている。さらに、心疾患関連の危険因子である左室肥大患者の心筋重量についても、アムロジピン群の13.4g/m2に対し、カンデサルタン群では22.9g/m2減少させた。
メタボリックシンドロームで代表されるように、高血圧症と糖尿病を合併している患者が多いことから、糖尿病の発症率についても調査された。その結果では、アムロジピン群に比べ、カンデサルタン群はBMIが高いほど顕著に糖尿病の新規発症リスクを低下させることが明らかになっている。具体的には、リスク低下率はBMI22以上の患者で41%、25以上の患者で48%、27.5以上の患者では63%だった。そのほか、カンデサルタン群ではBMIが27.5以上の高血圧患者の全死亡率を有意に半減する結果も得られている。
また、高齢者の高血圧患者に対する違いについても解析されたが、65歳以上と75歳以上の患者の心血管イベント発現率に、両群間で差は認められなかった。両剤共に平均血圧値、高齢者の各年齢層の降圧目標を達成していた。違いとしては、カンデサルタン群で70歳以上の患者の腎イベント発現率の低下が認められている。
副作用については、アムロジピン群ではアルカリフォスファターゼ、カンデサルタン群では血清カリウム値が有意に上昇した。他にも赤血球減少やクレアチニン値、コレステロール値、トリグリセリド値上昇などが確認されたが両群に有意差はなかった。
猿田氏はCASE”Jの結果を踏まえ、「肥満や糖尿病、腎疾患などの患者背景を考慮して降圧剤を選択することで、患者の予後を改善することができる」とし、「それぞれの薬剤の特徴を生かし、エビデンスに基づいて、いかに薬を上手に使い分けていくかが重要」だとした。