癌の研究は大まかに、[1]動物やヒトを対象に、癌の化学予防などを研究する実験的研究[2]高発癌・危険因子及び抑制因子を特定し、生活習慣を改善する疫学的研究[3]発癌関連ウイルスや細菌・寄生虫を特定し、感染防止と駆除を行う微生物学的研究――という三つのタイプに分類できよう。ただこれらの癌研究は、全て1次予防(癌発生の予防・発生年齢の大幅遅延)と2次予防(癌死亡を予防)のために行われていると言っても過言ではない。
癌の1次予防と2次予防対策を強力に推進すれば、癌の発生・死亡は、約半数が防止できるとの推計もある。特に「食事摂取物のコントロールによって、30%の発癌抑制効果が期待できる」という近年の疫学調査報告は、各方面で注目を集めており、米国では野菜の積極的な摂取を行政的に推し進めてきた。その結果ここ数年来、同国の癌発生・死亡率は横ばい、あるいは減少化傾向を示している。 食物摂取をコントロールする施策の一環として米国NCIは、癌予防が期待できる食品機能性成分などを、的確にスクリーニングできるシステムを構築した。
それと同時にデザイナーフーズプロジェクトが発足し、癌予防効果が期待できる40種類の天然由来食品を選択。NCIが開発したシステムを用いて、これらの食品中に含まれる抗癌活性の強い成分をスクリーニングし、臨床研究を通じて、選択された食品が実際に癌予防に使えるかどうかの評価を進めている。
このプロジェクトが、重要度に応じて3段階に分類した各食品の癌予防効果活性チャートでは、最も重要度が高いカテゴリー1には、ニンニク、キャベツ、甘草、大豆、ショウガ、セリ科(ニンジン、アシタバ)が挙げられている。カテゴリー2にはタマネギ、ターメリック、お茶、十字花科(ブロッコリー、カリフラワー)、ナス科(トマト、ナス)、ホウレン草、柑橘類、さらにカテゴリー3にはローズマリー、バジル、セージ、大麦、小麦フスマ、米糠、カンタループ(メロン)、キウイ、ベリー類、キノコ類、海草類が名を連ねる。
カテゴリー1に分類された大豆由来製品は、これまで多くの疫学的研究から、乳癌、前立腺癌、大腸癌に有効だと報告されてきた。米国のデザイナーフーズプロジェクトも、大豆のどの成分が特に有効かを検討した結果、BBIに強い癌抑制効果が認められたという。
そのメカニズムは、BBIによって癌抑制遺伝子のCx43が活性化され、肺腺癌、骨肉腫などに対する有効な癌化学予防成分として働くというものだ。BBIは、大豆中に大量に含まれており、豆腐を1日200g摂取するだけで、十分な癌抑制効果が期待できそうだ。
一方、ガーリック由来成分のDATSが、消化器系の癌に抑制効果を示す可能性が見出された。DATSは、不安定な化学構造のため、消化吸収を通じて生体内での発癌抑制効果は期待できないが、消化器系の癌に対しては効果を発揮するという。
このように米国では、食品成分の癌予防効果に対する科学的裏づけが着々と進められており、実際、癌発生・死亡率の減少に寄与し始めている。今後のさらなるエビデンス構築を注目すると同時に、わが国でも食品成分が癌予防にうまく活用されることを望みたい。