日本学校薬剤師会(会長杉下順一郎氏)の法人化問題で、薬剤師界が揺れている。そもそも学校薬剤師に関しては、「日学薬」「日本薬剤師会学校薬剤師部会」という同様の活動目的を持つ二つの組織が併存してきた。従来は両者が蜜月の関係を保っていたが、最近はその間がぎくしゃくしており、現場の活動に混乱を生じることが懸念されている。さらに社団法人化と相まって、都道府県薬剤師会に日学薬を脱退する動きも出始めている。日薬の児玉孝副会長は、本紙の取材にコメントし、「日学薬は組織に影響がないとしているが、現場の混乱、組織へのダメージは見過ごせない。法人化によるデメリットについても、きちんと検討してもらいたい」と、日学薬に冷静な対応を求めた。
日学薬は以前から法人化を議論してきたが、今年7月に開かれた理事会で「法人化対策委員会」を設置。その後、議論は急ピッチで進み、11月5日に開かれる総会で可決し、法人化を決定したい意向だ。
法人化を進める理由を日学薬は、今年9月に同委員会が都道府県学薬に送付した「日本学校薬剤師会法人化に関する趣意書」にまとめている。趣意書では法人化が必要な理由として、次の8項目を示した。
[1]任意団体の役職は対象外とされるため、学薬活動をしてきた薬剤師に褒章を与えることは可能でも、叙勲として顕彰することは困難。
[2]日学薬の法人化は、各都道府県の学薬組織に影響するものではなく、会費は現状のままで値上げする必要はない。
[3]日薬は厚生労働省の認可団体であり、日学薬は文部科学省に直結するもので所管を異にしている。
[4]法人格を持たなければ、公式に文科省と交渉することができない。
[5]文科省の諮問機関として法的条件を整備し、直接課題の立案に参加するための足場を拓き、社会のニーズに応えることは当然の責務。
[6]県の学薬は日学薬の傘下に入るため、日学薬法人化は都道府県学薬組織に利益こそ担保されても、不利益は些かもない。
[7]社会に拓かれた公的窓口としての学薬事業を盤石の上に構築することで、将来の薬剤師像を社会に根付かせ高い評価を勝ち取ることが法人化の目的である。
[8]情緒的反対論は払拭し、薬剤師像を社会にどう確立するか考えるとき、薬剤師は総力を挙げて日学薬の法人化に賛同し、その実現を期するべきである。
◇現場の混乱危惧する声が‐“日薬と表裏一体”に疑問符
しかし、こうした日学薬の動きに対して、日薬代議員会や会長会では法人化に対して強い危惧の念が示され、反対の声が上がっている。各県の薬剤師会が懸念するのは、会費問題や事業の分裂などだ。
現在、学薬の会費は都道府県薬剤師会が負担しているケースも少なくない。しかし法人化された場合には、社団法人が他の社団法人の会費を負担することは法的にも整合性が取れないため、寄付も会費も一切、薬剤師会は負担できなくなる。そこで県薬によっては、「法人化された場合には脱退する」との方針を打ち出しているところもある。
また、組織が日薬の学校薬剤師部会と日学薬の2本立てとなった場合、「どちらの事業を優先させればいいのか」とし、現場の混乱を危惧する声も強い。そこで県薬から日薬に対し、「日学薬と話し合いの場を持つべきだ」との要望がなされてきた。しかし現実に日薬と日学薬幹部の話し合いが行われたのは、7月のただ1回のみだ。
児玉氏は「今年4月以降、日薬からは再三にわたって、日学薬に話し合いの場を求めてきたが、なかなか応じてもらえなかった。また法人化についても、7月に初めて口頭で説明されただけだ。日学薬は会員に対して、“法人化しても日薬と表裏一体となって、協力して活動していく方針は変わらない”と説明していると聞くが、それなら法人化に当たって、なぜ日薬に説明がないのか」と日学薬のいう“表裏一体・日薬協調説”に首を傾げる。
さらに、毎年4月に開かれる日学薬総会では、例年、日薬の学薬担当役員があいさつしてきたが、今年に限っては、日薬に対して役員の出席要請がなかったという。この点についても、日学薬から日薬へは十分な説明がなされないままだと話す。
児玉氏は「物事には必ずメリットとデメリットの両面がある。日学薬は法人化についてメリットを説明しているが、デメリットも会員にきちんと説明されているのだろうか」と強い懸念を表明する。
具体的には、趣意書の内容にある▽法人化は学薬組織には影響しない▽日薬と日学薬は厚労省、文科省とそれぞれ所管が異なる▽都道府県学薬組織は日学薬の傘下に入る▽情緒的法人化反対論は払拭すべき――などの点に異論を唱えた。
児玉氏は「県薬が会費を負担できなくなり、県によっては脱退まで検討するという状況の中で、法人化が学薬組織に影響を及ぼさないはずがない。また日薬は厚労省の管轄、日学薬は文科省の管轄といっているが、これは今や時代錯誤ではないか。学薬活動も従来の環境衛生活動から、今では薬物乱用防止やアンチ・ドーピングなど、医薬品に関わる業務に拡大してきた。行政も厚労省と文科省が共同で事業を行うケースもあり、既に縦割り行政の時代ではない」と指摘する。
さらに、「歴史的に見ても、学校薬剤師が薬剤師会を支えてきたのは間違いない。そうした歴史を考えても、やはり両者は一緒になって、今後も活動していくのが最も望ましい姿だ」と訴えた。
なお、杉下日学薬会長は本紙の取材に応じたものの、コメントの掲載は拒否している。