安全性の理由から第I相試験で開発中止となった候補化合物について、非臨床と臨床の立場で安全性データを検証した結果が、6~8の3日間にわたって盛岡市で開かれた第36回日本トキシコロジー学会で、エーザイのグループから公表された。製薬企業が開発中止化合物のデータを明らかにするのは異例。ただ、昨年には日本製薬医学医師連合会(JAPhMed)の調査で、安全性評価の意思決定に、非臨床データがほとんど考慮されていない実態が判明し、トキシコロジストと安全性を検証する医師の連携不足が浮き彫りになっていただけに、具体的な事例を提示することで、非臨床と臨床の連携に弾みをつけ、安全で成功確率の高い新薬開発につなげたい考えだ。
今回、安全性の理由で開発中止となった事例として公表されたのは、ナトリウムチャネル阻害薬(神経性疼痛)、カルシウムチャネル阻害薬(急性脳梗塞)、DPP‐4阻害薬(2型糖尿病)の3化合物。そのうちナトリウムチャネル阻害薬の第I相試験は、低用量投与時に頭痛、立ちくらみ、疲労感の有害事象が見られたものの、600mgと1000mg投与群を追加したところ、高用量の1000mgを投与した1例で間代性強直性けいれんの大発作が出現した。
そこで、臨床評価を行った結果、薬剤の影響が最も高いと判断された。最終的に、脳性発作は低用量投与時に発現する有害事象から予測できないとされ、また鎮痛剤として使われる化合物は、高用量を誤用されやすい傾向があることから、開発中止となった。
カルシウムチャネル阻害薬の第I相試験では、初回投与群5例、反復投与群3例で起立性低血圧が発症。特に想定する最少治療用量以下の100ng/mLから相次いで発生した。この化合物は、脳卒中後の神経保護作用を適応症としていたが、起立性低血圧が脳卒中を悪化させる可能性があることなど、主要な有効性予測に反する作用が見られたため、開発中止が決定された。当時、起立性低血圧を予測する実験系がなかったことも要因と考えられている。
一方、DPP‐4阻害薬は、毒性試験の結果から非常に良好な安全性プロファイルを得ていたが、第I相試験では10mg投与群の6例中1例に発疹が発現。80mgの高用量群では6例中4例と増加した。発疹は重篤な有害事象ではなかったが、明らかに薬剤に起因していることに加え、反復投与試験で、より重篤な発疹が起こる可能性もあると判断された。
これらの経験を踏まえ、エーザイで動物試験を担当する築館一男氏は、非臨床の立場から、「全ての非臨床データや文献に基づき、適切なリスク評価を行い、潜在的なリスクの臨床でのモニタリング方法を提案していく必要がある」と指摘すると共に、「より高感度のバイオマーカーを常に提案していく責務がある」と、トキシコロジストの役割を強調した。
一方、臨床開発を担当する安全性医師の立場から、エドワード・スチュワート・ギリー氏は、「非臨床からのアドバイスを全て実行に移すのは難しいこともあり、非臨床試験から全ての毒性を予測することは不可能」とした上で、「第I相試験で用量の増量を決定していく際には、非臨床担当者と緊密に連携し、そのアドバイスを踏まえて決断することが望ましい」と述べ、「開発中止例の検討から多くのことを学べた。こうした事例を1企業だけでなく、広くシェアしていくことが重要」と、さらなる連携を呼びかけた。