中央社会保険医療協議会・薬価専門部会(部会長:遠藤久夫学習院大学経済学部教授)は3日、日本製薬団体連合会などが提案する薬価維持特例を柱とした新薬価制度案について、業界ヒアリングを行った。部会委員からは、「未承認薬等開発支援センター」の設置など、業界が一体となった取り組みを評価する声が上がり、ある程度理解は進んだものの、薬価維持特例の対象範囲や、前倒しで得られた資金が本当に新薬の研究開発に振り向けられるのか、などといった意見が出るなど、業界側が詰めなければならない新たな宿題が出された格好となった。
日本製薬団体連合会の竹中登一会長は、開発期間の長期化や、新薬研究開発費の高騰(1品目当たり800~1300億円)、成功確率の低さ(0・005%)など、厳しい開発環境を示した上で、未承認薬やドラッグラグ問題に対する業界の取り組みについて説明。
これらに対応するには、特許期間中に研究開発投資が回収でき、ハイリスク・イノベーションに挑戦できる薬価制度の必要性を示した。
日本製薬工業協会の庄田隆会長は、未承認薬や未承認効能の開発・承認取得に取り組む企業の業務を支援する「未承認薬等開発支援センター」を会員各社で設置し、5月29日に登記申請を行ったことを報告。薬価維持特例が導入されれば、「アンメット・メディカル・ニーズの高い領域の研究開発を加速させることになる」と説明した。
日本ジェネリック製薬協会の澤井弘行会長は、業界が取り組んでいる対応を紹介。日本医薬品卸業連合会の別所芳樹会長は、「薬価改定で採算性が低下し、有用でありながら生産中止になる医薬品がある」と、ベーシックドラッグの最低価格の必要性を強調した。
竹中氏は、「総括」として、薬価維持特例の導入に際し、後発品の使用が政府目標に達していない場合は、乖離した不足財源の一定部分を、制度導入に伴う財政影響への緩和策として、既収載品の薬価を引き下げることで対応することは、やむを得ないとの考えを示した。
しかしその際は、後発品使用がなぜ目標通りに進まなかったのかを踏まえる必要があるとの認識を示した。その上で、後発品のない新薬か、後発品のある先発品か、後発品だけかなど、様々な組み合わせで、最も妥当な範囲を選定し、かつ、薬価維持特例実施の財政影響と当該年度における通常の薬価改定の影響を勘案して、引き下げ率を決定するのが適切とした。
また、薬価維持特例の適用対象については、特許・再審査期間中の新薬に限定せず、「基礎的医薬品や伝統的医薬品の中で、保険医療上不可欠とされ、採算性に乏しいために安定供給が危うい品目、具体的には不採算品再算定によって薬価が引き上げられた品目なども想定している」とした。
意見交換では、新たな課題も浮き彫りになった。
支払側の対馬忠明委員(健康保険組合連合会専務理事)は、薬価維持特例ルールの対象について、「中医協が念頭に置いていた革新的新薬と、加重平均値を基準にする仕組みは相反する概念ではないか」と指摘。遠藤部会長も同様の問題認識を示した。
これに対し、製薬協の庄田氏は「競争優位があれば乖離率は低い。そこが革新性の証」とし、新規収載時に加算がつかなくても、上市後に革新性が評価されることもあり得ることを説明した。
また、山本信夫委員(日本薬剤師会副会長)は、特許期間満了後に後発品へ市場を譲ることを特例ルールの前提とする視点から、新薬としての配合剤の位置づけを疑問視。さらに、「後発品使用率が政府目標の30%に達しなかった時、どうするかを考えていただけなければ理解できない」と主張した。
日薬連の竹中氏は、「後発品へのスイッチはよいが、促進に尽力することにコミットしろと言われてもできない」としながらも、「後発品ドライブの制度や仕組みを中医協で決めていただければ従う」と述べた。