“専門性”掲げCRCの方向性を示す場に
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第6回「CRCと臨床試験のあり方を考える会議 2006in大宮」が10月7、8の両日、「臨床試験の質の向上とCRCの専門性」をテーマに、さいたま市の大宮ソニックシティで開かれる。既に2回の認定CRC試験が実施され、442人の認定CRCが活躍の場を広げており、指導的な役割を担うCRCも全国に増えてきた。ただ、キャリアパスの問題、上級CRCの教育等、多くの課題も浮かび上がってきており、CRCを取り巻く状況は新たな段階を迎えたと言えよう。日本臨床薬理学会が担当する第6回会議は、こうした背景を強く意識し、CRCの専門性を打ち出すと共に、認定CRCの一つの方向性を示すことを狙いにしている。また、初めての試みとして、参加者が一堂に会する全体集会を開く予定で、認定CRC試験の目指す理念を改めて周知していきたい考えだ。そこで、第6回の会議代表を務める安原一氏(昭和大学医学部第二薬理学教授)に、会議の見どころをはじめ、CRCを取り巻く諸問題についてもお話をうかがった。
””第6回を迎えた会議の考え方についてお話しいただけますか。
安原 「CRCと臨床試験のあり方を考える会議」は、第1回と第2回を日本臨床薬理学会が担当して以来、第3回を日本看護協会、第4回を日本病院薬剤師会、昨年の第5回は日本臨床衛生検査技師会が世話役を務めてきました。そして第6回の今回、各団体で構成するCRC連絡協議会の持ち回りが一巡し、再び日本臨床薬理学会の担当としてお世話させていただくことになりました。
第一次過渡的認定からスタートした日本臨床薬理学会認定CRC制度も、既に2回の認定試験を終え、今年3回目の試験を迎えようとしています。そうなってくると、会議の参加者も長年CRC業務に携わり、既に認定を取得したCRCと、これから認定を目指すCRCの二極化が進んでくることは避けられないと思います。
そこで、今回の会議は、広く指導的立場のCRCから初心者までを対象とし、「臨床試験の質の向上とCRCの専門性」をテーマに掲げました。専門性を少し強く打ち出したのが特徴です。
もう一つ、CRCと臨床試験のあり方を考える会議のコンセプトは、現場で働くCRCが一つの場所に集まって話し合うことにあるわけですが、これまで全員が一堂に会する機会はありませんでした。昨年、横浜で約2400人が参加したことを考えると、全員が一つの会場に集まることは不可能です。しかし、何とか参加者が一堂に会する機会を作りたいと考え、辿り着いたのがメイン会場に2500人を収容できる大宮ソニックシティでの開催でした。
そこで今回、新しい試みとして、メイン会場を使った「全体集会」を2日目の最初と最後に行います。朝8時半から行われる全体集会は、主に日本臨床薬理学会認定CRC試験をめぐる話題提供と海外研修CRC報告が行われることになっています。
もともと認定CRC制度は、各職能団体の合意のもと、日本臨床薬理学会に一本化した経緯があります。そのことをもう一度、参加者の方々に周知すると同時に、認定制度で何が望まれているかをお話しする義務があると考え、全員が一堂に会する全体集会を企画しました。
当日は、CRC連絡協議会の代表世話人を務める中野重行先生から詳しいお話があると思いますが、模擬患者(SP)さんを呼んだ実践形式のプログラムも予定しています。認定CRC試験は筆記試験で知識を問うだけではなく、技能を見る論文試験、態度・コミュニケーション能力を見る面接試験の3本柱であることを理解してもらうためです。
知識・技術・態度がきちんと備わっている人が認定CRCとなる。そういう認定制度であることを、改めて皆さんに理解していただく場となればと思っています。また、日本臨床薬理学会の海外研修員制度で、04年度からCRCアドバンスドモデル研修がスタートしました。毎年夏に3人ずつ、米国で2週間の研修を行っていただいており、既に9人の方々がこのコースを修了されています。全体集会では、実際にこの海外研修に参加されたCRCの方から、研修の模様や感想を述べていただくことにしています。
既にCRCと臨床試験のあり方を考える会議も6回目を迎え、昨年ぐらいから認定取得後の目標が話題に上るようになってきました。そういう意味で、さらに上を目指したいと考えているCRCに、専門性や海外活動など、様々な方向性があることを示していくことも全体集会の意義と考えています。
””最後に開かれる全体集会は、どういった内容なのでしょうか。
安原 最後の全体集会は、プログラム委員長の内田英二先生に司会をお願いし、プログラムのまとめを行いたいと考えています。できれば、シンポジウムの座長を務めた先生に数分ずつ総括をしていただくことを考えています。
要旨集では分からない論議のポイントをお話しいただき、それらを踏まえて内田先生から、臨床試験をめぐる今後の展望が示されるのではないかと思っています。12題のシンポジウムを議論した後の全体集会では、2日間全体のレビューが総括できるのではないでしょうか。この2回にわたって開かれる全体集会が今年の大きな特徴と言えますし、シンポジウムもディスカッションを重視したいと思っています。
””専門性をめぐっては、どのような内容が用意されていますか。
安原 専門領域としては、癌、小児科、精神科を取り上げました。それぞれ領域別にシンポジウム「CRCの専門性を考える」で議論されることになっています。いずれも難しい問題を抱える領域ですから、これからステップアップを目指すCRCの方には参考になるものと思います。
またプログラム全体では、今回12題のシンポジウムを用意しました。そのうち3題は専門性をめぐるテーマで、2題はフレッシュCRC向けとなっています。その他のシンポジウムも、CRCにとって興味あるテーマを取り上げることができたのではないかと考えています。少し欲張りすぎた感もありますが、会議に出席すれば、すべてのテーマが聞けるようにプログラムを考えましたので、期待していただければと思っています。
””昨年に引き続いて、フリー討論も継続されています。
安原 2日目のフリー討論も恒例のプログラムとなってきましたが、今回は参加者が集まってから自由に質疑応答を始めるのではなく、少し内容を事前に準備されるものと思います。フリー討論の場を通じ、日常的な問題点がいろいろと提示されることで、より実践での問題解決ができるのではないかと考えています。
フリー討論は、2日目の午前、ポスター討論と同じ時間帯に行います。今年は151演題と多くの演題が寄せられていますので、ポスターとフリー討論の両方に参加し、新しい知見から日常の疑問まで、議論を深めてほしいと思っています。ただ、昨年まで企画されてきたポスター発表形式のミニシンポジウムは行いません。すべてシンポジウムで発表していただくことにしました。
””今回は、全体会議が大きなウエイトを占めるということですね。
安原 全体集会の開催は、もちろん参加者が一堂に会することに意義があるわけですが、専門性という意味では、経験が長いCRCにも目指す方向性を少しでも示せればという思いもあります。CRCを一生の仕事にしていきたいと考えている人には、この会議が職能としてプライドを持てるような方向性を定める場になって欲しいと思っています。
””招待講演は、どのような内容になっていますか。
安原 招待講演は、慶應義塾大学商学部の吉川肇子先生から、「リスク・コミュニケーションが変える医療者”患者関係」をテーマにお話しいただくことにしました。リスク・コミュニケーションという言葉は、普段あまり聞き慣れないと思います。しかし、吉川先生によると、インフォームド・コンセントもリスク・コミュニケーションが実現した一つの仕組みであると言われています。
新しい医療者と患者関係におけるリスク・コミュニケーションの考え方は、コミュニケーション能力が求められるCRCにとって、非常に参考になる話題ではないかと思いますし、この招待講演も今回の会議を特徴付けるプログラムにしたいと考えています。
また例年通り、厚生労働省、文部科学省の担当者による教育講演も予定しています。最近は、少し行政側もCRCの重要性を認識し、積極的な人材養成を進めてきています。この機会に多くの参加者に集まっていただき、国に直接現場からの意見を訴えるような場になるよう期待しています。
””ポスター形式の一般演題は151題と相当多いですね。
安原 確かに一般演題は年々増えています。やはり、自分で演題を提出して、その場でいろんな意見を聞く機会は非常に重要だと思いますし、昨年からは優秀ポスター賞が選考されるようになりました。これは今回も踏襲し、まとめの全体集会前に表彰式を行います。
前回の優秀ポスター賞は、認定CRCによる投票で選ばれましたが、もう少し客観的に専門家が評価し、優秀ポスター賞を選考しようとも考えました。しかし、この会議を支えていくのは認定CRCの方々です。その自覚を持ってもらうためにも、認定CRCが投票する方式を今回も維持することにしました。
””既にCRCと臨床試験のあり方を考える会議は2000人以上の規模となり、もっと小さな勉強会で意見交換をしたいといった声も聞かれています。
安原 いま話題になっているのは、認定の更新時期です。認定CRC制度は5年ごとに更新されることになっています。2年後には、初めての更新を迎えるわけですが、その条件としてCRCと臨床試験のあり方を考える会議に3回以上の参加が必須となっています。それだけ私たちは、会議への参加を重く位置付けているわけですが、実際に毎年参加できないといった声があるのも事実です。
認定CRCが全国に増えてくる中、各地区で勉強会が立ち上がることは望ましいことです。今後、そうした勉強会への出席も更新単位として認めていく方向は当然あっていいのではないかと思います。実際、各地区の勉強会をどう位置付けるかについては、CRC連絡協議会でも話題になっているところで、認定CRCが中心になって企画した勉強会については支援していく方向で考えています。
””今年初めに、日本病院薬剤師会と日本看護協会の共催で「認定CRCのためのアドバンスセミナー」が開かれましたが、こうした勉強会を視野に入れているのでしょうか。
安原 そうです。認定CRCが中心となって企画した勉強会を全国的に行っていけば、研修の機会がもっと各地に根付いていくのではないかと思います。ただ、CRCと臨床試験のあり方を考える会議に参加しないで、たとえ各地区の勉強会で更新単位を取得できたとしても、これだけ内容の濃い勉強会はないのも確かです。そう考えると、やはり全国のCRCが集まって議論するCRCと臨床試験のあり方を考える会議が中心にならざるを得ないと思います。
””もう一つは、昨年も話題になりましたが、認定を取得した上級CRCのための教育の場がないと指摘されています。
安原 その点は、シンポジウム「CRCが求める教育について考える」でも論じられると思いますが、特に院内CRCにとっては、ローテーションの壁があります。現在CRC業務に携わっていても、看護部や薬剤部からの出向という形ですから、認定を取得してもCRC業務から外れる可能性があります。
そうなると、独自に治験管理センター等が人材を採用できるシステムになっていない限り、ずっとCRC業務を続けていくことは難しいのが現状です。医療機関としては、当然その人の能力を見て、CRC以外にも活躍できる場を考えるわけですが、私はそれでいいのではないかと思っています。看護部や薬剤部に戻るかどうか、他の場所でCRCを続けるかどうかは本人が決めることで、だからこそ、次の新しい人材が配属できる状態でなければいけません。そうしなければ、院内CRCは減っていく一方だと思います。
””CRCだけではなく、それぞれの進む道があっていいということでしょうか。
安原 そう思います。逆に患者さんとのコミュニケーション、必須文書の管理等、CRCを経験した人が日常業務に戻ったとき、必ずいろいろな場面で役に立ってくると思います。
大きな視野で考えれば、CRCは医療の一翼を担っています。臨床試験や治験も将来の医療であり、エビデンスを作る部分に関与しているわけですから、医療の担い手と言えます。既存の医療だけをマネジメントしていくのではなく、自分から足りない医療を作る役割を果たしている。そういった自負がCRCの大きな支えになっていると思います。
そういった中で、少なくともこの会議ができることは、頑張っている人を評価すると共に、多くのCRCから出された意見を集約し、国の制度に連動させていくことではないかと考えます。会議における議論の積み重ねを、職能としての位置付けを提案していく機会にしてもらえればいいのではないかと思っています。
今では、CRCの存在なくして臨床試験は成立しないとの認識は定着しました。その後どうするかについては、これから会議を通じて議論していけばいいということです。これまでの会議は、どちらかと言えば、皆で悩みや問題点を考えるという趣旨でしたが、今後はもう少し発展させ、職能としてのCRCを位置付けるためには、どのように行動を起こしていけばいいのかを考えることも重要になってくるのではないでしょうか。
””最後に参加者へのメッセージをお願いします。
安原 今回は新しい試みもあり、CRCの皆さんにとって興味が持てるような内容を準備したと自負していますので、多くの方々のご参加をお待ちしております。