労働者健康福祉機構(理事長伊藤庄平氏)は「石綿曝露者における中皮腫等の早期診断法の確立」を、今年度の新たな研究課題として取り組むことを決めた。同機構ではアスベスト関連疾患の研究を進めてきたが、中皮腫の治療には早期診断が不可欠なことから、その確立を新規研究課題にしたもの。来年度には研究結果を取りまとめ、その成果を普及させ、アスベスト関連疾患の早期診断・治療に生かしたい考えだ。
今回の研究では、肺癌において癌抑制遺伝子のメチル化が高頻度に生じていることから、癌抑制遺伝子のメチル化が、アスベスト曝露による中皮腫や肺癌の早期診断マーカーとなり得るか否かをまず検討する。
具体的には、アスベスト曝露者に発生した中皮腫・肺癌における各種癌抑制遺伝子のメチル化を解析し、患者背景(職種、曝露期間、曝露から発癌までの期間)との関連について検討する。さらに、中皮腫・肺癌で高頻度にメチル化を来している癌抑制遺伝子を特定し、アスベスト曝露者の血清を用いて、特定された癌抑制遺伝子のメチル化について解析を行い、中皮腫・肺癌の早期診断マーカーとしての有用性を検討していく。
研究では、各労災病院において診断された多数の中皮腫症例を、解析の対象とすることから、非常に信頼性の高いデータが得られると考えられている。また、実際のアスベスト曝露を対象としたメチル化の解析では、中皮腫発症のどの時点で、あるいは発症前のどの時点で、癌抑制遺伝子のメチル化が起きるのかの解明を進めることにしている。同機構では「恐らくは世界で初めての試み」としており、研究成果に期待が集まっている。さらに、通常の胸部レントゲン写真による健診を組み合わせれば、中皮腫・肺癌の早期診断にもつながることから、同機構では07年度中には研究結果をまとめたい考えだ。
同機構は「石綿曝露によって発生する肺癌及び悪性中皮腫例の調査研究」を最優先課題に挙げ、重点的に研究へ取り組んでおり、既に今年5月には中間報告を行っている。
また政府レベルでも、8日にはアスベスト問題に関する関係閣僚による会合が行われ、各省庁の取り組み状況や今後の対応などが協議された。