欧州医薬品審査庁(EMEA)が12月にも医薬品の環境リスクアセスメント(RA)を開始する見通しとなったことを受け、一部安全性試験受託機関は新しいビジネスチャンスと捉え、欧州で事業展開する日本の製薬企業からの受注を狙っている。欧州では実施以降に承認申請する医薬品について、水生生物などに対する毒性などの環境RAに必要なデータの提出が必須になるという。しかし、試験ができる機関はごく限られており、農薬などで経験を持つ機関が動いている。
医薬品は、現行では投薬されるヒトへの影響を評価しているが、もともとの生理活性の高さから、微量であっても、環境中に排出される医薬品成分の水生生物、土壌中の生物などへの影響が懸念され、環境RAの必要性が浮上。欧州では、2001年にEU指令が出された後、ドラフト改定を経て、6月にEMEA指針案が策定され、12月にも実施される見通しだ。米国では、98年にFDAがガイダンスを策定している。
承認申請に至る医薬品が環境RAの対象になるため対象化合物数は多くはないが、新しい規制であり、対応が必要になる日本企業も出てくることから、一部安全性試験受託機関が顧客獲得に動き始めた形だ。
スイスのRCCは、農薬試験の経験も豊富で、要求事項には全て対応可能だという。RCC本社には専門部署があり、安齋享征日本支社長は「製薬会社、製薬団体から情報交換をしたいとのオファーが増えている」とし、日本企業からの受注に期待を寄せる。
米ハンティンドンライフサイエンスも、欧州での規制実施をにらみ、同地域で事業展開する日本企業からの受託獲得を狙う。日本法人の成澤充社長は今後、研修会を実施するなどして、需要の掘り起こしを進める考えだ。
米コーヴァンスは、アンソニー・コーク氏(プレジデント・アーリーデベロップメント)が「農薬関連試験の実績で、今後は製薬業界から環境試験を受託できるよう期待している」と意欲を語っている。
イーピーエスグループで、様々な強みを持つ海外機関の代理店となっているエルエスジー(LSG)は、環境毒性試験では農薬分野で経験豊富な米ワイルドライフ社で、医薬品でも対応が可能だという。LSGの高田明社長は「安全性試験と共に積極的に展開する」との姿勢だ。
三菱化学安全科学研究所も受託は可能だとし、鈴木四郎常務取締役は、欧州の動向に期待し「質の高いサービスのため、環境化学に詳しい人材の増強を進める」と説明する。日本トキシコロジー学会でも欧州の動向を解説、今後も需要を喚起していくとしている。
EMEAの指針案は、医薬品承認申請に添付する環境リスク評価書に必要なリスク評価方法を記載したもの。医薬品(ペプチドや薬草類など適用免除あり)の使用、貯蔵、廃棄に伴う環境リスクを対象(合成、製造によるリスクは対象外)にしている。評価は二段階で、推定される環境曝露が一定以上の場合、水生生物などに対する毒性試験などを行う。申請を拒否するための基準ではないとし、リスクが排除できない場合には廃棄時に注意を促すなど予防・安全対策を求める内容となっている。
環境RA指針の素案検討
日本での対応は、厚生労働省の05年度から3カ年の補助により、厚生労働科学研究「医薬品の環境影響評価法に関する研究」(主任研究者・井上達国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター長)が、医薬品承認審査で必要な環境RA指針の素案を検討している段階。欧米の事例を参考に整理し、日本での化学物質審査規制法との整合性を持たせる形で進めている。
規制化は未定だが、実施となれば、審査官に環境影響の専門家が必要になるなど体制整備が迫られることになりそうだ。